腎泌尿器外科学講座
腎泌尿器外科学講座
腎泌尿器外科学講座
講座について
旭川医科大学腎泌尿器外科学講座では、医学生に対する卒前教育はもとより、卒後教育を大切にしています。泌尿器科医になることを希望して、泌尿器科の研修を選択する若手医師に対して、大学病院と関連病院の密接な連携の下に、泌尿器科専門医に必要な知識と手術手技、臨床における判断能力を養成していきます。他科に比較して泌尿器科における女性医師数はまだ少なく、全国で300名程度ですが、女性の泌尿器科医も着実に増加しており、女性医師の今後の益々の活躍が期待されています。泌尿器科専門医を取得した後は、各人の希望により基礎研究、臨床研究、国内・国外留学を経験することもできます。優れた臨床医の育成に努めながら、国際的な視野で活躍する医師を生み出すのが教室の目標です。
2014年から開始した内視鏡手術支援ロボット:ダビンチによる手術を開始して、前立腺癌に対する前立腺全摘は500名を超える患者様に安全に施行してきています。さらに腎癌に対する腎部分切除術、膀胱癌に対する膀胱全摘除術、子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱に対する仙骨膣固定術、腎盂尿管移行部狭窄に対する腎盂形成術も順次取り入れて、数多くの患者様に施行してきています。
スタッフ紹介
准教授
橘田 岳也キッタ タケヤ
講師
堀 淳一ホリ ジュンイチ
講師
和田 直樹ワダ ナオキ
助教
小林 進コバヤシ シン
教育
医学科・看護学科における担当科目
医学科講義
- 生体調節医学
- 生殖発達医学
- 糖尿病・内分泌Up Date:副腎疾患の外科治療
- 腫瘍学:泌尿器科領域の悪性腫瘍の治療
- 症候別講義:血尿、尿量・排尿の異常
- 統合演習
看護学科講義
- 臨床病態治療学
医学科実習
- 医学科特論:第4学年:臨床データを用い、統計学的に臨床的検証を行います。積極性をもって邦文による論文発表も視野に入れています。
- Bed side learning:第4~5学年
- Advanced実習:第6学年:BSLとはことなり、多くの手技を実習で学んでいきます。Da Vinci Surgical systemのシュミレーションも行います。
研究
腫瘍に関する研究
臨床研究
近年手術支援ロボットが急速に普及してきており、泌尿器科手術の多くでロボットを使用することが可能となってきた。それに伴いロボット支援手術の治療成績や合併症に関して多く報告した。まず腎癌においてはロボット支援腎部分切除術における術前画像スコアリングシステムに関して泌尿器科紀要に論文投稿を行った(阿部)。また医学研究特論の授業において学生と協力して論文を執筆する活動を精力的に行っており、腎部分切除時のTrifectaについての検討も行った(玉木、学生青木)。
前立腺癌に関しても最も早期に保険収載された術式であることもあり、多くの報告を行っている。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術における拡大リンパ節郭清の検討(玉木)や、開放手術と比較した手術後のQOLの評価(和田)、断端陽性に関する検討(玉木)、MRI fusion biopsyに関する検討(菊地)、高リスク前立腺癌に対する術前ホルモン療法の検討(竹内)などを報告し、患者のQOL向上や術式の改善を行ってきた。
膀胱癌は筋層浸潤膀胱癌に対する膀胱全摘がロボット支援手術として行うことが可能となり、安全性が向上。解放手術では侵襲が大きく手術が躊躇されていた高齢者やフレイル・サルコペニアを有する患者に関しても適応が拡大されている。それに伴い膀胱全摘後早期合併症と腸腰筋量の関係に関する報告(阿部)や、膀胱全摘術におけるADL低下予測因子についての検討(渡邊)など身体機能に着目した報告を行ってきたほか、80歳以上の高齢者におけるロボット支援膀胱全摘術の有用性に関する報告(和田)や、開放膀胱全摘術とロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘術の周術期合併症の比較(和田、学生谷地元)など合併症に着目した報告も行ってきた。初期は尿路変更・主に回腸導管は体腔外で行っていたが、中期からは体腔内で尿路変更まで完遂する術式を採用し、その初期経験についても報告した(和田)。
基礎研究
札幌医科大学第一病理学講座へ特別研究生として小林医師が配属し、腎癌細胞における癌抗原の同定に関する研究を行った。腎細胞癌のHLA classⅠ上に提示されているペプチドを免疫沈降により回収して質量分析法にてペプチド配列を予測。ヒト内在性レトロウイルス(HERV)のトランスクリプトーム配列から予測されうるペプチド配列と照合することによって、HERV由来のペプチドが腎細胞癌のHLA classⅠ上に提示されていることを同定した。同時にこの腫瘍細胞から抽出した腫瘍浸潤T細胞(TIL)内にそのペプチドを抗原認識するものが存在することを、テトラマーを用いたフローサイトメトリーやインターフェロンγアッセイで確認した。これは新たな癌抗原であり将来の治療標的となりうる可能性を秘めている。この研究成果は第110回日本泌尿器科学会総会にて発表しており、現在学位取得へ向け論文執筆中である。
旭川医科大学解剖学講座へ堀医師が配属し、GnRHアゴニストとアンタゴニストの差異についてラットモデルでの基礎研究を行った。この研究では雄ラットにGnRHアゴニストであるリュープロレリンとアンタゴニストであるデガレリクスの投与を行い、投与前後の精巣組織学的変化を観察した。まず精巣の重量に関しては、投与後28日経過した段階では両剤とも著しい減少を示した。投与初期の段階ではリュープロレリンの方がより迅速に減少した。次に精細管ではリュープロレリン投与群で未熟精子細胞と異常な多核巨細胞が観察された。これはアゴニストによる初期刺激効果により、一時的に視床下部-下垂体-精巣機能が亢進したためと推察された。一方デガレリクス投与ラットにおいては精細管に変化は認められなかった。その他セルトリ細胞の減少などの精巣上皮の変化も認めており、GnRHアゴニストとアンタゴニストの効果の違いを組織学的な観点から評価した研究内容であり、学位を取得した。
下部尿路機能障害に関する研究
臨床研究
過活動膀胱
過活動膀胱(OAB)にはさまざまな薬剤が使用可能である。それらOAB治療薬に関する臨床研究を行ってきている。渡邊らは、OABを有する前立腺肥大症(BPH)患者に対するα1遮断薬とオキシブチニン塩酸塩経皮吸収型製剤併用療法の検討を報告している(14th Pan-Pacific Continence Society (PPCS) Meeting.; 泌尿器外科 32巻6号 P847)。柿崎らは、男性OAB患者に対してα1遮断薬を服用の上にミラベグロンを追加併用する効果と安全性をプラセボコントロール試験で公表している(Eur Urol Focus. 2020; 6: 729)。和田らは第二のβ3作動薬であるビベグロンとミラベグロンの直接比較した検討を前向きに施行した(AUA Annual Meeting 2023)。その中で、両薬剤の同等性を報告するものの、一部の患者ではビベグロンによる昼間頻尿や切迫性尿失禁の改善効果が優位とする報告を行っている。
難治性OABに対して施行されるボトックス膀胱注入療法であるが、畠山らによって当科の初期経験を報告した(第88回日本泌尿器科学会東部総会)。諸家の報告と同等の成績であり、初回投与による効果が良好である場合には、複数回の投与を希望されることが多かった。また和田らは神経因性膀胱に対してボトックスを投与した場合、それまで施行していた経口薬物治療を中断すると、もともと存在していた膀胱のコンプライアンス低下が顕在化する場合があるため注意が必要とする報告を行っている(IJU Case Reports. 2022;5:384)。
前立腺肥大症
男性における代表的疾患である前立腺肥大症(BPH)に関するさまざまな臨床研究を行ってきた。和田らは当科においてBPHに対して外科的手術を施行した患者の長期的な改善効果を報告している(Int J Urol. 2019;26:1071)。術前検査で明らかな下部尿路閉塞のある患者群では術後7年以上が経過しても追加治療を行うことなく良好な経過をたどることを報告した。和田らはBPH治療薬であるタダラフィルの服薬継続率を後方視的に検討し、67歳以上の高齢者ではその有効性などの点から服薬継続率が低下することを報告した(ICS Annual Meeting 2020, 第26回日本排尿機能学会; Urol Int. 2020; 29:1)。渡邊らは、デュタステリドとα1遮断薬併用療法中のBPH患者においてα1遮断薬中止後の臨床経過を検討した(泌尿器科紀要66巻9号 P289)。約半数の患者でデュタステリド単剤での治療継続が可能であった。和田らはタダラフィルを服用中のBPH患者に対するデュタステリドの追加併用療法の臨床的効果を前向きに検討した(ICS Annual Meeting 2021, 第28回日本排尿機能学会; Int Urol Nephrol. 2022;54:1193)。α1遮断薬に対する併用効果と全く同等の改善効果を認めることを報告している。和田らは長期にデュタステリドで治療中のBPH患者が外科手術に移行する危険因子を検討した(ICS Annual Meeting 2021, 第86回日本泌尿器科学会東部総会; Int Urol Nephrol. 2022;54:31)。治療前の前立腺が大きく、閉塞の高度な患者群ではデュタステリドによる薬物治療を施行しても最終的に手術に移行する可能性が高いことを報告した。特に膀胱内への前立腺の突出が高度な場合には薬物治療抵抗となる場合が多い。
女性泌尿器科
渡邊らは、腹圧性尿失禁、特に混合性尿失禁に対するTOT手術の中期治療成績を発表している(第26回日本排尿機能学会; 日排尿会誌 30巻2号 P473)。2022年から導入したロボット支援腹腔鏡下仙骨膣固定術(RSC)であるが、高木らによってその初期経験を報告した(第87回日本泌尿器科学会東部総会)。またRSC後に生じた腸閉塞の一例を高木らが報告しているが、術中に使用した有棘縫合糸によるものであったとする有益な報告であった(第25回女性骨盤底学会)。
サルコペニア・フレイル
渡邊らは、消化器外科で外科手術を受けた患者の術後尿閉とサルコペニアが関連していることを報告した(第27回日本排尿機能学会)。和田らは75歳以上の高齢者においてサルコペニアの存在はOABやBPHに対する薬物治療を行っても十分に改善しない要因の一つであることを報告した(第36回日本老年泌尿器科学会)。
その他
和田らは、排尿筋低活動の患者を尿流測定の波形のパターンから推測できないかといったことを検討した(ICS Annual Meeting 2020, 第27回日本排尿機能学会; Low Urin Tract Symptoms. 2021;13:361)。
過去に診療を受けた間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の当科での治療実態をまとめて報告している(日本排尿機能学会誌 31巻2号 P399)。
和田らは、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術における術前ホルモン療法が排尿機能に与える影響を報告しており、術前にホルモン治療を受けた患者群では術後尿失禁の回復が遅れる可能性を指摘した(第411回日本泌尿器科学会北海道地方会)。和田らはロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘後の尿失禁に影響を与える因子を検証し、有益な指標を発見するには至らなかったが唯一患者のBMIが高値であることが術後尿失禁の危険因子であると報告した(第417回日本泌尿器科学会北海道地方会)。
基礎研究
脊髄損傷モデル動物における下部尿路機能障害
2014年から2016年まで米国ピッツバーグ大学泌尿器科に留学していた和田らによって脊髄損傷動物を用いて。脊髄損傷の下部尿路機能への神経成長因子(NGFやBDNF)の関与を報告している(Wada et al. Am J Physiol Renal Physiol. 2019;317: F1305)。留学からの帰国後も当教室において脊髄損傷マウスを用いた長期の膀胱機能の変化とBDNFの関与を研究・報告している。脊髄損傷マウスでは膀胱排尿筋の過活動と排尿筋括約筋協調不全(DSD)を生じるが、BDNFの発現を抗BDNFで抑制するとDSDを改善させることで排尿効率を上昇させた。また長期的にBDNFを抑制すると、排尿筋過活動をも抑制させることを報告している(European Association of Urology 34th Annual Congress, 2019; Neurourol Urodyn. 2020;39:1345)。脊髄障害モデル動物に関する最近の知見をUrol Sci. 2022;33:101の中で紹介している。
サルコペニアと膀胱機能異常
超高齢社会におけるフレイル・サルコペニアに対する対応は喫緊の課題であるが、サルコペニアを下部尿路機能障害とのかかわりに関する報告はまだ少ない。和田らは高脂肪高ショ糖食で飼育したラットでは骨格筋の減弱が進行するといった過去の報告を参考にして、膀胱機能に関する研究を行っている。高脂肪高ショ糖食で飼育したラットでは脛骨筋肉の重量が低下し、含有タンパク量も低下しており、膀胱の収縮力の低下や頻尿といった膀胱機能の異常を認めたことを報告している(第29回日本排尿機能学会, Annual Meeting of the International Continence Society(ICS) 2023)。