生化学講座
生化学講座
生化学講座
講座について
本講座は昭和52年に初代教授 金澤徹先生の着任と共に生化学第二講座として開講され、平成11年に当講座の助教授であった鈴木裕先生が二代目の教授に昇任され、講座名改編により「機能分子科学分野」と改称。開講当初よりイオン輸送体(カルシウムポンプ)の分子機構や、同遺伝子病の発症機構の解明を目指す研究を行ってきました。
令和元年に、本学の心血管再生先端医療開発講座より三代目教授として川辺淳一先生が着任され、従来のイオン輸送体研究に加えて、毛細血管・神経という新しい研究プロジェクトが展開しています。本講座の分野名も、「統合生命科学分野」と改名いたしました。
この名称には、以下の二つの想いが込められています。
- 全身に分布する微小血管・神経に関する研究を通じて、臓器・組織間での密接な連携・統合の中での多細胞生物という観点で、生命現象を解き明かし、再生医療や抗老化医療などへの臨床応用を目指すこと。
- 上の研究活動を遂行していくために、臓器や疾患の枠を超え、基礎・臨床講座間の垣根を超えた連携・統合研究活動を進めていくこと。また、この一連の連携研究活動の中で、幅広い視野で生命現象を理解する教育を提供していくこと。
教授挨拶
2019年6月20日付で旭川医科大学生化学講座教授を拝命いたしました。これまで本学の心血管再生先端医療開発講座で約十年間、臨床、研究、教育に携わってまいりましたが、今後は基礎講座の立場から、臨床と基礎との連携、臨床応用にむけた基礎研究、学部学生や若い医師のサイエンス志向の醸成など様々な想いを持ちながら再始動してまいりたいと考えております。
米国での10年の研究生活
私は、本学を1987年に卒業(9期)、第一内科講座に入局すると同時に大学院に入学し循環器内科医と共に医学研究のキャリアを開始しました。大学院卒業後、直ちに、米国Columbia大学へ留学する機会をいただき、現在もなお難治性疾患である心不全の克服を夢見て、心機能ならびに心臓の寿命に関わるカテコラミン・シグナル研究を開始しました。本シグナルの効果器である心臓型アデニル酸シクラーゼをクローニングし、これを軸として『心臓カテコラミン系の役割』について遺伝子レベルから、蛋白、細胞、そして遺伝子改変動物を用いた疾患病態モデルまで幅広く研究をしてまいりました。その間、留学生から大学職員としてHarvard大学、Pennsylvania州立大学およびNew Jersey医科歯科大学において約十年の研究生活をおくることになりました。
母校での「毛細血管」研究の始動
約十年前に母校に戻り、新しい研究をゼロから構築していくことを決断しました。『多臓器生物が維持する上で本質的なシステムとは?』の自問に、たどりついた結論が、新しい研究標的となる「毛細血管」でした。この問いの狙いは、“失われた臓器を蘇らせる”再生医学・医療の「次の一手」に必要とされる概念を打ち出せること、そして、臓器や疾患を越えた多方面の研究展開が期待できることでした。
心血管再生先端医療開発講座という活動の場を与えていただき、これまで、毛細血管形成に関わる新規因子や、毛細血管を再生する幹細胞を発見することができました。これらの知見を幹として、再生医療を含めた多くのプロジェクトが育っています。特に、臓器再生に本質的な「毛細血管」研究を行っていく中で、「再生」と表裏にある「老化」に関する重要な課題解決につながる糸口も見えてきました。現在、着実に外的競争研究費を獲得し、知的財産を創りつつ、虚血性疾患や動脈硬化などに加えて、糖尿病(ラ島の維持再生)、サルコペニア(骨格筋の維持再生)、慢性炎症などの病態解明や治療開発に向けたプロジェクトを展開しています(毛細血管プロジェクト概要参照)。
統合科学としての脈管研究の推進と将来を担う人材へのサイエンスマインド教育
本講座の分野名を「統合生命科学分野」と改名いたしました。この名称には、二つの統合・連携活動の想いを込めています。 本講座の従来からの歴史あるCaポンプ蛋白機能解析研究に加えて、全身に張り巡らされる微小血管・神経に関する研究を通じて、臓器・組織間での密接な連携・統合の中での多細胞生物という観点で生命現象を解き明かし、再生医療や抗老化医療などへの臨床応用をめざすということ。もう一つは、この幅広い研究を展開する上で、臓器や疾患の枠を超えた研究活動が不可欠であり、基礎・臨床含めた講座間の垣根を超えた連携・統合研究、そして、この活動の中で幅広い視野で生命現象を理解する教育を推進していきたいということです。
現実の医療も含め、広い視野をもちながら、未知の世界を切り開くサイエンス力は、少子高齢化・AI革命の中、混沌とする未来にむけて、力強く生きていく原動力となるはずです。研修医、大学院生や若手研究者にとって、研究遂行のすべての経験がサイエンス力を身につける教育そのものです。長い臨床医としてのキャリアを持つ基礎医学講座の教官として、学部学生レベルから、(研究医、臨床医かぎらず)長い医師人生におけるサイエンスマインドの重要性を説いていきたいと思います。そして、一緒にプロジェクトを楽しみながら進める意欲ある医師、若い研究者の参画を望んでいます!
スタッフ紹介
教授
川辺 淳一カワベ ジュンイチ
研究
主な研究テーマ
毛細血管プロジェクト
高齢化社会に必要な医療開発のための「毛細血管分子生物学」毛細血管研究から「多細胞生物の維持・再生のシステム解明」と「抗老化、再生にむけた将来の医療開発」を目指します。
四十兆個の細胞から成るヒトを含め、多細胞生物が維持していく上で、不可欠な三つの条件があります。(1)体中の細胞へ栄養・酸素・代謝物を交換するシステム(毛細血管網)、(2)生命活動の中で失われる細胞を補充するシステム(体性幹細胞)、(3)一つの生命体として活動するための細胞・組織・臓器間の情報連携システム。二つ目の条件となる組織内の幹細胞が維持されるための特別な場として微小血管周囲(血管ニッチ)が明らかになってきました。三つ目の条件の中でも組織中に分布する神経網は、高等動物の活動にとって不可欠な連携システムです。そして、この末梢神経網は、微小血管と伴走することにより組織中に分布します(神経・血管ワイヤリング)。以上の観点から、毛細血管は、多細胞生物が維持していく上で必須な条件のすべてを支える基盤臓器といえます(図1)。
毛細血管は、内皮細胞からなるチューブの周辺を壁細胞(ペリサイト、平滑筋細胞など)が覆う単純な構造から成る最小単位の微小血管ですが、体内を張り巡る全脈管の9割以上を占める最大の臓器でもあります。 注目されている再生医療においても、「失われた臓器を蘇らせる」ために、多細胞生物の根幹となる毛細血管がどのように形成され、維持されるか?解明することが重要であると考え、「毛細血管」研究を行ってきました。一連の研究の中で、(1)毛細血管形成に関わる新規の因子(Ninjurin1)、さらに(2)毛細血管を構成するペリサイトの中に、新規の多分化能を持つ細胞(capillary stem cells; CapSCs)を見出すことができました。
毛細血管形成やCapSCsが、虚血性疾患や動脈硬化、末梢神経再生、骨格筋組織再生において重要な役割を果たすことを明らかにし、臨床応用にむけたプロジェクトを進めていく一方で、これらの病態モデルでの現象を裏付ける基本的なシステム(神経・血管ワイヤリング、血管ニッチ幹細胞維持など)の解明にもとりかかっています(図2)。
組織内の微小血管や神経を三次元で可視化する技術や、特定細胞の蛍光標識、標的遺伝子欠損や疾病モデルなどの遺伝子改変マウスも充実し、様々な臓器・組織を標的とした研究プロジェクトが、循環器内科、腎臓内科、神経内科、血管外科、放射線、皮膚科など多彩な専門分野の若手医師や大学院生、さらに学部学生が集い、進んでいます。
AI革命の時代を生きる上での自身のキャリア設計を考え、一緒にプロジェクトを楽しみながら進める意欲ある医師、若い研究者の参画を望んでいます!
筋小胞体カルシウムポンプの分子機構の解明
筋小胞体Ca2+-ATPase (SERCA1a)はイオン輸送タンパクの中でも研究の歴史が古く、詳細な酵素反応速度論的解析の蓄積が有るのに加え、2000年以降、次々と反応中間体の立体構造発表されている。当講座では、これらを基に、酵素反応、イオン輸送機構と、タンパク質分子のダイナミックな動きのすり合わせを、原子レベルで追及している。