沼田 篤
【臨床研究】
頻尿・尿失禁
●難治性過活動膀胱に対するレジフェラトキシン(RTX)の有効性につき、第13回日本排尿機能学会(2006.9月、東京)、第95回 日本泌尿器科学会総会(2007.4月 神戸)で沼田が発表し、有効率は21.4%であった。
●オキシブチニン膀胱内注入療法を行っている患者において、レジニフェラトキシン膀胱内注入療法を行い、その膀胱蓄尿機能の改善効果とQOLの改善について、第14回日本排尿機能学会(2007.10月、福島)で沼田が発表した。7例中6例はオキシブチニンの方が蓄尿機能が改善し、7例中4例でオキシブチニンの方がQOLを改善させていた。オキシブチニン膀注療法は現在も難治性蓄尿機能障害の治療選択肢の1つといえる。
●65歳以上の高齢者に対するイミダフェナシの有効性と安全性について検討した。副作用は軽度であり、処方1日目から症状およびQOLの改善を認めたことを第15回排尿機能学会にて和田が発表した。
下部尿路閉塞
●前立腺肥大症(BPH)に伴う過活動膀胱(OAB)患者に対するタムスロシンとソリフェナシン併用療法の検討では、α1遮断薬投与後もOAB症状が残るBPH患者に対してタムスロシンとソリフェナシンの併用療法は有用な治療法であると第96回日本泌尿器科学会総会と2008年国際尿禁制学会で柿崎教授が発表した。
●根治的前立腺全摘術後の下部尿路症状の変化について、Pressure Flow Study, IPSS, QOL, 尿流量測定, 残尿測定にて検討した。術前の下部尿路症状(LUTS)の強い症例では前立腺全摘術により自覚的かつ他覚的に尿勢の改善を認め、術前のLUTSが軽度の症例では術後に尿勢が悪化傾向であったと第73回日本泌尿器科学会東部総会で和田が発表した。
●TUR-Pの結果の予測にPressure Flow Study(PFS)が有効検討した。PFSは下部尿路の閉塞の程度と膀胱収縮力を調べることができ、閉塞が強く膀胱収縮力の良い症例では、TUR-Pで良い結果が期待でき、また、術前膀胱収縮力が弱く、さらに排尿筋過活動がある症例ではTUR-Pの結果があまりよくはなかったことを2008年国際尿禁制学会(ICS)で和田が発表した。この発表は2008年の河邉賞を受賞した。
膀胱の血流
●BPHが及ぼす膀胱血流への影響を調べるため、TUR-Pの前後の膀胱血流を超音波エコーを用いて和田が検討中である。
小児
●小児原発性VURに対する逆流防止術後の再発例を検討した。術後の排尿・排便状態がVUR再発に関与している可能性が考えられ、VURの再発の有無のみではなく、排尿や排便状態の把握とそれに対する適切な対処が重要であると、第96回日本泌尿器科学会総会で発表した。
残尿測定器械
断層エコーとゆりりん、BladderScanを用いて膀胱容量を測定し比較した検討では、ゆりりんは過大評価、断層エコーは過少評価する傾向があることを、第96回日本泌尿器科学会総会で沼田が発表した。
【基礎研究】
中脳排尿抑制部位の検討
これまで排尿調節機構の解明をテーマに、宮田の橋排尿中枢の検討、谷口による中脳排尿促進部位の研究が行われてきた。沼田は「MICTURITION
SUPPRESSING REGION IN THE PERIAQUEDUCTAL GRAY OF THE MESENCEPHALON OF THE
CAT」というタイトルでAmerican Journal of Physiologyに2008年4月に受理された。また、中脳排尿抑制部位の遠心性の投射について検討した。中脳排尿抑制部位を電気刺激および化学的刺激で確認後、Biocytin(順行性のトレーサー)を注入した。橋排尿中枢、中脳排尿促進部位、橋排尿抑制部位、黒質は標識されず、赤核と小脳が標識され、中脳排尿抑制部位は赤核と小脳を介し排尿を抑制していることが示唆された。以上は第15回排尿機能学会、2008年国際尿禁制学会にて沼田が発表した。
過活動膀胱における膀胱知覚異常および尿路上皮の機能異常の網羅的解析
膀胱知覚には膀胱伸展情報を伝えるAδ線維と膀胱の痛覚や冷覚を伝えるC線維が関与する。通常はC線維は膀胱伸展には関与しないが、過活動膀胱のような病的状態では、このC線維の活動亢進が関与すると推察されている。そこで末梢神経検査装置と経尿道的膀胱壁電気刺激電極を用いた電気生理学的検討で、膀胱のAδとC線維の各々に特異的な電気刺激を加え、その閾値を測定することで膀胱知覚過敏の有無を検討する。また、膀胱生検組織を用いた免疫組織化学的検討で、膀胱上皮および粘膜下に発現する知覚受容体の発現量を検討する。現在、柿崎教授が検討中である。
プロスタグランジンの排尿機能に及ぼす影響について
前立腺肥大症による膀胱平滑筋の過剰収縮は虚血を生じ、膀胱粘膜にPGE2を誘導しC線維を活性化する。この機序によるC線維の活性化が、排尿筋過反射の一因とも考えられている。また、ヒトにおいて下部尿路の閉塞度が高いほど尿中のPGE2の排泄量が高くなる傾向にあることが報告されている。しかし、PGの脊髄への効果については研究されていない。和田はPGを脊髄内に投与し、排尿機能に及ぼす影響についてラットで実験中である。
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