2000年1月1日に、健康科学講座の前身である衛生学講座に赴任して、早いもので18年目に入りました。私の教授就任挨拶を「かぐらおか」2000年春号に書きました。全人医療と予防医学の大切さについてまとめたものです。旭川医科大学での教育への抱負として、患者さんの人格を含めた人間全体に対応できる全人医療を身に付けた良い医療人を輩出することを目指し、また、社会医学の教室をあずかる者として、人間誰しも健康でありたいと願い病気にならないことを願っていることから病気を予防することで人間の幸福に貢献できると考えられる医療者を育てたいとの思いを述べたものです。
今まで自ら授業で接した学生さんを卒業生として数多く送り出してきました。この間、系統講義や実習だけでなく、選択科目として教室に配属された学生さん、またIFMSA(旧国際保健医療研究会)や「はしっくす」など学生サークル、全国の医学系大学の社会医学系講座で組織される衛生学公衆衛生学教育協議会主宰の社会医学セミナーに参加された方など予防医学や街興しに興味を持つ多くの学生さんと交流することが出来ました。まだ、残念ながら研究者として教室に入った卒業生の方はおられませんが、行政職にすすんだ方が数名与えられています。
教室の研究については、別に示されていますので多くは割きませんが、トキシコロジー、健康科学、環境科学といった社会医学に独特のものから基礎医学まで広い範囲の研究を行なっています。社会医学研究に求められる、多方面にわたる医学的な研究を応用することで社会に還元し、人々の健康と幸福に結びつけることを念頭においた研究を心がけています。人間集団へのアプローチも研究手法の重要な部分をしめることからフィールドでの調査活動を伴う研究も多く手がけています。それぞれの教室員が、いくつもの領域の研究に平行して取組んでいることも社会医学講座の特徴と言えましょう。
もともと社会医学領域は、教育と研究の他に社会とのつながりも大きな部分をしめます。厚生・保健、労働衛生関連の公的役職や、産業医など産業保健活動、保健所などとの協働事業などがそれにあたります。さらに衛生学・公衆衛生学が応用と実践の科学であることと、近年の健康に対する社会の関心の高さの表れてとして様々な取組みや種々の要因の健康に対する良い効果を医学的エビデンスに基づいて検証することが求められるようになったため、地域の産業界・行政などから協力依頼が多く寄せられるようになっています。現在、旭川医科大学が主幹として活動する大学連携組織「旭川ウェルビーイング・コンソーシアム」は、その受け皿となるもので、その運営に深くかかわっています。また、2008年に始めたJICA研修“Health System Management for Regional and District Health Management Officers for African countres”にて、アフリカ諸国から多くの研修員を受け入れてきました。発展途上国の保健行政の向上への貢献を続けるとともに、今までの人脈をもとに共同研究も模索していきたいと思っています。
2003年に本講座は大講座に移行するとともに「健康科学講座」を名乗りました。人を疾病側から見るのでなく医科学の本来のあるべき姿である健康の側から人を見るべきとの思いをもって、名付けさせていただいたものですが、健康科学部と混同されることも増えましたし、専門医制度の導入を機に、「社会医学講座」と名称変更いたしましたが、分野名に健康科学の名称を残しました。今後も、人の健康と幸せ、地域社会の安寧と活性化に貢献できる教室であり続けたいと思っております。社会医学領域の研究や保健行政や産業医学などの社会的職務は地味なものですが、より多くの同志が加わって頂けることを願っています。