令和6年度 留学体験談(派遣)
令和6年度 留学体験談(派遣)
令和6年度 留学体験談(派遣)
WHO・ILO・グローバルファンド(スイス)
医学部医学科6年 重堂 百恵
私は旭川医科大学AO入試国際医療人特別選抜二期生として、令和6年6月18日から6月27日にかけて、スイス・ジェネーブにて世界保健機関(WHO)本部、国際労働機関(ILO)本部、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の3つの国際機関へ留学しました。
◯留学の経緯
私が小学生の頃に、円錐角膜を患い数十年片目が見えない状態で生活していた父が旭川医科大学で角膜移植を受け、目が再び見えるようになりました。当時幼いながらに感じた医師への強い憧れを胸に医学部受験を決めました。私は家族旅行も含め海外経験がほとんどなく高校時代から留学や、テレビで目にする国境なし医師団をはじめとする国際医療機関への興味と、公民の教科書で目にした国連機関で活躍する女性の姿に憧れがありました。前学長時代に練られていた旭川に中国やロシアとを繋ぐ国際医療センターを作るという構想と本学で行っている遠隔医療に心惹かれ、AO入試国際医療人特別選抜という当時新設2年目の入試枠で旭川医科大学に入学しました。
今回の留学にあたり、留学先の検討の際に高校時代から持っていた国際医療機関への興味から、WHO本部への留学を希望したところ、旭川医科大学の卒業生であり厚生労働省の医系技官としてご活躍され、現在WHO本部事務局長補としてスイス・ジュネーブで働いている中谷祐貴子先生のご厚意によりWHOやILOへの留学が実現しました。
また、今回引率を務めてくださった社会医学講座の神田浩路先生のお知り合いが勤めていることからグローバルファンドへの訪問も行うことができました。
◯現地での実習について
移動日を含めたスケジュールは以下の通りです。
6月18.19日 東京からジュネーブへ移動、19日昼過ぎにジュネーブ到着
6月20.21日 WHO視察
6月22.23日 国際赤十字博物館など自主見学
6月24日 ILO視察
6月25日 グローバルファンド視察
6月26.27日ジュネーブから東京へ移動、27日夜に東京帰着
WHOは国際連合の専門機関の一つであり、人間の健康を基本的人権の一つと捉え、その達成を目的として設立された機関です。過去には天然痘の撲滅に寄与し、マラリア対策など感染症の対策を行い、近年ではCOVID-19の対策に取り組みました。
WHOでの実習では日本人職員の方々から貴重な講義を受けることができました。講義内容としては「WHOの概要とデータサイエンス、ICD-11について」「食品安全分野におけるWHOの活動について」「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジにおけるアドボカシー活動」「Promote/健康に過ごせる環境をつくる」「医薬品・ワクチンのグローバルな安全性監視について」という五つのテーマで、それぞれ専門分野についてお話しいただきました。日本人職員の方々は、医師免許を持つ医系技官だけでなく、薬学部や獣医学部出身の方、公衆衛生や疫学専門にしている方など様々でした。
中でも、個人の要因だけではなく商業的要因や治安などの社会的要因、環境要因に目を向け、健康促進にアプローチするpromotionや preventionの講義が印象に残っています。予防医学について学ぶ中で、健康のために運動しよう禁煙しようという話題はよく聞きますが、タバコ農家に他作物の育て方を教えるなど、広く社会に目を向けた活動に感嘆しました。医師は診察室などで患者さんと一対一で接することが多いですが、一対一で解決できない広い問題について深く考えることができるのが厚生労働省やWHOなどの行政機関の魅力だと感じました。
WHOの中谷先生、清水先生、喜多先生、高梨先生、岡本先生、藤野先生、長谷川先生、木阪先生には多岐にわたる分野の講義や自身の経験を踏まえたアドバイスをいただき、本当にありがとうございました。
ILOでは天野先生と及部先生にILOの特徴や役割、ILO国本部での実際の仕事経験、仕事を通じたジェンダー平等についてご指導いただきました。ILOは1919年に国際連盟に創設され国際労働基準の制定を通して、世界の労働者の労働条件と生活水準の改善を目的とする専門機関です。三者構成であり各国の政府だけでなく、各国の使用者代表と労働者代表も決定権を持っています。
私がILOでの講義の中で一番驚いたのはGDPに反映しないインフォーマル経済が世界の8割を占めている、ということです。国によっては社会慣習的に労働していても労働者と認められていないドメスティック・ワーカーなどが存在しているようです。ILOではインフォーマル経済に対して法律のギャップをなくすために条約を制定したり、各国での雇用状況の統計システム作りをしている、という話を、及部先生のネパール事務所での実体験を踏まえて詳しくお話いただき、非常に勉強になりました。ILOの天野先生、及部先生、ありがとうございました。
グローバルファンドは元はWHOの一部署でしたが、三大感染症(エイズ、結核、マラリア)に対処するための資金を集め、その資金を最も必要とする地域へ振り向けるため2002年に独立した機関です。グローバルファンドでは木場先生にグローバルファンドの成り立ちや役割、今後の見通しなどを教えていただきました。エイズ分野の予防・早期発見のためのセルフテスティングの発想は、日本でも近年増加している梅毒の予防・早期発見に通じるものがあるように感じました。ご指導いただいた木場先生、ありがとうございました。
◯留学を終えて
スイス・ジュネーブは北海道と気温や気候は大差なく快適に過ごすことができました。(少し乾燥していたので保湿剤を持っていってよかったです。)ジュネーブはトラムの文化が発達していて、見学などで色々なところに行く機会がありましたが、不便な思いをすることもありませんでした。英語ではなくフランス語で話しかけられることが多かったため、フランス語をもう少し勉強しておくべきだったと思いました。
留学前、スイスは物価が非常に高いと言われていましたが、ただ高いというだけではなくサイズが大きかったり、とても美味しい本場のスイーツに出会えたため、あまり「高い!」という気持ちにはなりませんでした。
自主見学の中では植物園や時計博物館など様々な場所を訪れました。その中でも国際赤十字・赤新月博物館がとても心に残っています。過去の戦争や紛争の記憶が、写真や記録品、遺留物、そして人々の体験談を語る映像音声が展示されていました。戦争や紛争は過去のものではなく、現在もロシアのウクライナ侵攻やイスラエル・ガザ戦争などが行われています。将来医師免許を持ち医療を学んだものとして何ができるかを考えさせられました。
スイス・ジュネーブは多民族社会で様々な人種の方が生活していました。日本では見られない光景をみることができ、様々な経験ができてよかったです。
◯最後に
学長の交代や、COVID-19の流行により、入学時に思い描いていた学生生活と多少違っていますが、今回たくさんの先生方、事務の方々、そして受け入れてくださる留学先の方々のおかげでスイス、ジュネーブに国際医療機関について知るために留学に行くことができました。関わってくれた皆様方に心よりお礼申し上げます。
特にWHOへの受け入れや、日本人職員へのアポイントに尽力してくれた中谷先生、引率を務めグローバルファンドへのアポイントもしてくださった神田先生、そして留学先の検討のために何度も面談を組んでくださり調整してくださった教育センターの佐藤先生に心より感謝申し上げます。
WHO・ILO・グローバルファンド(スイス)
医学部医学科6年 小野 大成
1.WHO等に留学する経緯、現地での講義・視察
将来、臨床検査・感染制御を専攻したいと私は強く希望しています。留学先の検討にあたり、他にも多くの魅力的な提案をいただきましたが、私の興味に最も一致するWHO・ILOなどジュネーブ市の国際機関で最先端の知識と技術を学ぶことが、将来のキャリアに大いに役立つと考えました。本留学の意義、特色あるキャリア教育、個人の興味を総合的に考慮し、WHO・ILOなどの国際機関に留学しました。
世界保健機関(WHO)では、はじめに清水先生にお会いして、感染制御実務を拝見し、WHOで毎日行われている、全世界を対象とした感染症サーベイランスについて学習しました。地域医療と国際機関が相互に還元できる取り組みとして、興味深く参考になりました。
また、私は社会保障と公衆衛生、医薬品分野に特に強い関心を持っています。今回の留学では、中谷先生はじめ多様なバックグラウンドを持つ先生方から講義を受け、キャリアの視野が広がるとともに、医学生として社会問題に国際的に向き合う視点を培うことができました。
われわれが直面する国際課題の一つがユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)です。UHCはWHOの提供するアドボカシー理念であり、「全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態」を指します。日本にはたとえば巨大な公的保険が整備されていますが、現代においても医療システムに問題がないわけではありません。
UHCは統一したアドボカシーとして改革の方向性を示すものであり、各機関の講義・視察を通じて、UHCの理念の実現に向けた取り組みを学びました。国際労働機関(ILO)では、公的健康保険の導入支援や保健医療サービスへのアクセス確保、持続可能な社会の創出に向けた取り組みを学びました。社会の一員として、UHCの達成にたゆまぬ努力が重要であり、保健医療サービスのスペシャリストとしての医師の役割も再認識しました。
最後に、産業保健と労働安全衛生法に詳しい学生として、WHOやILOでの講義・視察を通じて、これらの知識をさらに深めることができました。労働環境の改善、労働者の健康維持、持続的な成長に貢献する実務知識を得る機会を得られたことは大変貴重でした。
2.参考情報
<研修の日程>
2024年6月18日(火)の夜に日本を発ち、現地19日夕方 着、26日(水)午前
現地発・27日夜 帰国のフライトで訪問しました。
20日(木)・21日(金)はWHOにて国際保健全般についての講義、22日(土)は国際赤十字・赤新月博物館にてエマージェンシー対策の学習、24日(月)はILOにて労働衛生についての講義、25日(火)はグローバルファンドにて感染症実務についての講義となりました。
各機関ではここでしか得られない、数多くの貴重な体験がありました。
<費用>
滞在費、交通費等を含め、総費用は一人当たり46万円弱でした。
このうち、宿泊費、航空運賃、研修費の約36万円について国際医療人選抜の枠組みとして支援を受け、自己負担は約10万円でした。費用面でのサポートに感謝します。
<渡航ルート>
東京からジュネーブへの往復にトルコ航空を利用しました。価格、ダイヤ、サービスのバランスが良かったためです。東京=ジュネーブには直行便がありません。
<言語学習>
事前に英語でフランス語を勉強し、現地でのコミュニケーションに役立ちました。高校時代に仏語を自習していた経験から、勉強が捗りました。
第三言語をかじる利点は、もちろん各国の文化背景を学び現地が豊かになるでしょうが、それ以上にともすれば「グローバルな視点をもつ」われわれに多極的な発想を授けてくれることでしょう。
国際機関が集積するスイスで学ぶ価値がひとつここにあります。(列強諸国と一定の距離感を保ちつつ)各国政府・諸機関と協力し、地球規模で社会正義のために行動できます。日本国民として、医師として、地域社会に貢献し、世界にプレゼンスを発揮するうえで、多角的に思考する重要性を改めて認識しました。
<スイスの食事>
スイスでの食事はどれも美味しく、ご存じの通り、特にチーズが印象的でした。中谷先生、神田先生と夕食を共にいただきました。地元の食材を使った料理や洋菓子、ワインなど食文化はどれも素晴らしく、日常が豊かに感じられました。
3.謝辞
このたびの留学に際し、ご支援いただきました皆さまに心より感謝申し上げます。
まず、世界保健機関(WHO)にて多様な講義と実習をご提供くださいました、中谷祐貴子事務局長補に深く感謝いたします。中谷先生には研修全体を通じてご指導いただき、感染制御や国際保健の現場での貴重な経験を積むことができました。旭川医科大学の大先輩でいらっしゃる中谷先生のご支援がなければ、この貴重な機会を得ることはできませんでした。
また、WHOの清水先生、喜多先生、高梨先生、岡本先生、藤野先生、長谷川先生には、感染制御、疾病分類、医薬品安全性、UHCの理念、ヘルスプロモーション、食品安全など、多岐にわたる分野でご指導をいただきました。本学ご出身の木阪先生には、自らキャリアを切り拓かれてきたご経験から、私たち後輩へ豊かなアドバイスをご教授いただきました。WHOにてお会いした千葉大学予防医学センターの戸髙教授には、これからの留学のありかたについて熱くご指導賜りました。皆様のご指導により、国際保健の各領域における知識と視野を広げることができました。
国際労働機関(ILO)の天野先生、及部先生には、国連機関におけるILOの特徴や、ジェンダー平等とディーセント・ワークの重要性、雇用法制の社会実装実務に関するご指導をいただきました。皆様のご指導により、社会保障や公衆衛生に対する理解を深めることができました。
また、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(The Global Fund)の木場先生には、国際協調と機動的運営の重要性についてご指導を賜りました。心より感謝致します。
社会医学講座の神田浩路先生には、この留学の準備段階から現地での指導まで、多大なるご支援とご指導をいただきました。神田先生のご尽力により、現地での研修を充実させることができました。国際協力に深いご見識からくださったご解説には、多くの刺激と示唆をいただきました。
また、教育センターの佐藤伸之教授には、枠組みとしてのご支援と、留学の全体にわたるご指導を賜りました。佐藤教授のご支援なくして、この貴重な経験を得ることはできませんでした。佐藤教授のご指導により留学の意義を実感できました。
事務の方々にも、この留学の準備に際して、ひとかたならぬお世話になりました。心より感謝いたします。
最後に、この留学をともにした重堂百恵さんにも感謝の意を表します。学修を共にし、精神的にも支えられました。
多くの方々のご支援がなければ、この貴重な経験を積むことはできませんでした。本当にありがとうございました。