令和5年度 留学体験談(派遣)
令和5年度 留学体験談(派遣)
令和5年度 留学体験談(派遣)
アーヘン工科大学病院(ドイツ)
医学部医学科6年 伊藤 貴理
医学部医学科6年 佐藤 進之介
令和5年5月15日から6月2日までドイツのアーヘン工科大学病院(Uniklinik RWTH Aachen)に留学に行ってきました。留学全体を通じての体験についてまとめました。
アーヘン工科大学病院の心臓外科で3週間(移動日、土日祝日除き9日間)実習しました。実習内容は初日には病棟を案内してもらいましたが、ほとんどが手術見学でした。1日の流れは、7:20からカンファレンス(前日の当直医からの申し送り、当日の手術予定の共有、その他患者についてのディスカッション)の後、attending surgeonとprofessorはICUの回診、それ以下の医師は病棟管理に向かい、その後手術やそれぞれの仕事に向かうという流れでした。自分たちはカンファレンス、回診、手術見学という流れで実習をしていました。
以下、日付と実習内容(見学した手術内容)です。カンファレンスと回診は省略しています。
1日目(17日):健診、実習開始手続き
2日目(19日):病棟の説明、手術見学(弁置換術2件)
3日目(22日):手術見学(on-pump CABG, OPCAB)
4日目(23日):手術見学(mics MVP)、東北大学の齋木佳克教授による講演
5日目(24日):勉強会(司法解剖と死亡診断書の書き方について)、手術見学(MID-CAB)
6日目(25日):手術見学(on-pump CABG)
7日目(26日):手術見学(OPCAB)
8日目(30日):手術見学(TAVI)
9日目(31日):伊勢先生の動物実験の見学、実習終了手続き
実習の内容からわかる通り、ほとんどがバイパス手術の見学でした。日本人で臨床を行っている杉村先生によると、バイパス手術が非常に多く、日本ではPCIを行う可能性がある症例でもガイドラインの適応があればCABGを行う場合が多いとおっしゃっていました。見学していない手術も含めるとおおよそCABGを一日で2〜3件とかやっていました。杉村先生も年間100件以上バイパス術を執刀されるとのことでした。
また、朝のprofessorとattending surgeonの回診は日本とは異なり、professorとICU科の代表とのやりとりが中心です。こちらの病院には集中治療科の医師がおり、術後管理の中心的役割を担います。ICUに着くと心臓外科と集中治療科の医師が合流して回診が始まります。各患者の病室前で集中治療科の代表医師が患者の経過、問題等をプレゼンし、それに対して主にprofessorが意見し、attending surgeonも意見があれば発言するという形でした。医局員全体で回診しない点や、集中治療専門の医師がおり、術後管理はそちらが中心になるという点が、日本と異なると感じました。
22日には東北大学の齋木佳克教授が大学病院にて講演「Parallel development of innovative research and clinical practice in thoracoabdominal aortic repair」されており、聴講させていただきました。前日の夜には心臓外科のProf. Payam Akhyariが催した食事会に参加させていただき、僅かではありますがUniklinikのDrたち、齋木教授、杉村先生、伊勢先生、鈴木先生(伊勢先生と共同で研究されている東北大学からの先生です)らと時間を共有させていただきました。
最終日の午前には伊勢先生が現在行っている研究の見学をさせていただきました。心不全のラットAの腹部大動脈にラットBの弓部大動脈から採取したグラフトを両側バイパスし(吻合部間の腹部大動脈はバイパス後にクリップします)、バイパス血管に性別や投与する薬剤などによって違いがあるのかを考察するような研究をしていました(おそらくかなり端的かつ僕らにわかるようにそう説明してくださっています)。見学した日はラットAの頸動脈からの採血と臓器摘出を行っていました。
実習内容は日本にいる時(CCS)とさほど変わりありませんでしたが、attending surgeonの執刀をattending surgeonが助手を務めている非常にレベルの高い手術を見学できたのは非常に貴重な経験となりました。また、杉村先生に帯同して見学させてもらう機会が多く、貴重なご指導をいただきました。手術においてはメリハリが大事で、重要な部分はいくらでも時間をかけて丁寧に(CABGでは冠動脈−バイパスの縫合など)、それ以外の部分は素早くこなしているとお教え頂きました。先生は慶應大学を卒業し、日本で臨床をしていましたが、毎日が繰り返しになって刺激がなくなってきた時に、自らを高めたいという一心でドイツに留学することを決断されたとのことでした。どんな科の医師になっても、医師になったきっかけに誰しもがあるはずの人を助けたいという気持ちを忘れずに、常に自分の中に目標を掲げられる医師であってほしいというアドバイスを頂きました。
病院内では当然ドイツ語が使用されているため、会話の内容は全くわかりませんでしたが、時折先生らが英語で解説してくださったので、一緒に留学していた佐藤と協力してできる限り聞き漏らさないようにしていました。日常の英会話にはあまり困りませんでしたが、医療英語となると、やはり語彙力がまだまだ足りていないと感じました。毎日実習後にその日に学んだ新しい医療単語を二人で復習しながら実習していました。
伊勢先生には3週間で非常にお世話になりました。先生は現在、臨床ではなく研究をされているにもかかわらず、健診など実習の手続きまで同行していただき、さらには毎週のように夕食に連れて行って下さいました。週末の観光においても、先生にチケットや観光のアドバイスを頂き、安全に過ごすことができました。
今回の留学ではたまたま平日に祝日が2日あり、観光も十分にすることができました。ドイツ国内ではケルン、デュッセルドルフを、国外ではベルギーのブリュッセルを観光しました。欧州に来ること自体初めてだったので、建造物、食事、文化など全ての体験が貴重なものでした。留学を安全にかつ充実させることができたのは、伊勢先生、Prof. Akhyari始め現地のDrら、留学の機会を与えてくださった旭川医科大学心臓大血管外科 紙谷教授を始め、教育センター 佐藤教授、保健管理センター 川村特命教授、また学生支援課の方々の支援あってのものだと実感しています。ありがとうございました。この貴重な経験を今後の生活に活かせるように頑張ります。